ツボ

 
 「笑いのツボにはまってしまう」というのはとても厄介なものである。
 

 自分自身、あまり笑いの沸点が低い方ではないと思うので、何かを面白いと感じて笑いが止まらなくなったりすることは、他の人と比べて比較的少ない方だと思う。しかし、時に僕は(おそらく皆さんもそうだと思うが)、自分でも「何でこんなことで笑ってしまうんだろう」というような低レベルな事柄について、いつまでも笑いが込み上げ、危うく周囲から気味悪く思われそうになるという危険に晒されることがある。
 

 僕の「ツボ」リストの中で最も問題児なのが、恥ずかしながら、『最低ランクの下ネタ』群である。具体的に言うと、「うんこ」とか「ちんちん」と言ったような、下「ネタ」と呼べるのかさえ分からない、ただのお下品ワードを聞いただけで、沸々と笑いが込み上げてくる。
 
 僕は軽音楽サークルでバンド活動をやっているのだが、以前、バンド練習の合間に、ギターボーカルの男が唐突に、高い声で「うんちー」と連呼したことがあった。
 彼は普段からそのような冗談を頻繁に口走る。無論、こんなものは本人も別にいちいち笑いを取ろうと思って言ったわけではなく、口寂しさを紛らわすための戯れのようなものだっただろうし、実際他のバンドメンバーも「スルーをする」というセオリー通りの対処を取っていた。
 しかし、その中で僕一人だけが、オンバトだったら8キロバトルくらいの評価しかされないであろうその下ネタに笑い袋をくすぐられ、喉の奥から込み上げてくる「笑いゲロ」みたいなものを、歯を食いしばって顔を上気させ、必死にこらえていた。少し気を抜けば吹き出しそうだったが、吹きだすと軽蔑の眼差しを向けられ「うんこちんちんレベル」のレッテルを張られそうだったので、必死に堪えた。一旦ツボにはまってしまったものはなかなか抜けないもので、そのすぐ後に演奏したラッドウィンプスの曲は、笑いを噛み殺しながらの僕のブレブレドラムのせいでグチャグチャな演奏になっていただろう。
 
 
 僕も今年で21歳になった。鼻水を垂らして走り回っていた幼少期をとうの昔に経て、小中高大、友との友情を育み、多少の恋愛もし、部活動、受験、就職活動、壁に当たっては何とか乗り越え、曲がりなりにもそれなりの経験をし、成人男性としての人格を形成したはずである。それなのに、「うんこちんちん」への耐性が、鼻水を垂らしていた幼少期と少しも変わっていないのはどういうことか。おのが精神の成熟未完全なるを憎む。
 
 
 
 
 まぁツボにはまってしまうのは下ネタに限らないんだけどね。今日も阪急の電車の中で「管ナオト・インティライミ」という意味不明なワードを思い付いて、梅田から夙川くらいまで笑いをこらえてしまったし。