金縛り

 
 眠りが浅いせいか、結構頻繁に金縛りに遭う。月に1〜2回くらいは遭う。


 これだけ遭遇していると、初めて金縛りに遭ったときの、「全身から脂汗が噴き出して、解放されたときに魂が小刻みに震えるほど安心するような、それほどの恐怖と焦り」は、流石にもう感じないが、それでもやっぱり、あれは好きになれたものではない。経験の無い人にはなかなか伝わらないと思うが、意識があるまま体だけが動かないというのは、本当に、生きたまま棺桶に入れられて埋葬されてしまったような、たまらなくもどかしくて、かつ不安に包み込まれるような感覚なのである。

 金縛りにあったとき、意識がはっきりしているのなら、恐怖はまだマシかもしれない。しかし金縛り状態の時の意識というのは、僕の経験上、大抵の場合、「現実世界の意識70%、夢の世界の感覚30%」というように、混沌とした状態なのである。そして、そのまま気を抜けば睡眠の世界に誘われていきそうな、非常に「とろん」とした感覚だ。
 
 僕はこの状態の時に、「体動かねぇ、もういいや、眠いし、このまま眠っちまおう」と決断して眠ってしまったことが一度もない。怖くてできない。言うことを聞かない手足の神経に、動くまで懸命に指令を送り続け、意地でも起床を果たす。底に引きずり降ろされそうなアリ地獄の中で必死にもがきながら、命からがら外に這い上がるように。
 
 もしそのまま、まどろみに意識をあずけてしまうと、アリ地獄の中をズブズブと沈んで行き、最後には中心部からポトっと、夢の世界というパラレルワールドに落下して、永遠にその世界の住人になってしまうような、もう2度と目覚められないような、そんな気がするのだ。身動きがとれない状態でのあの混沌具合は、僕にそのような不思議な恐怖を与える。恐くて、どうしても金縛り状態のまま再睡眠しようと思えない。
 
 
 「いやいや、そんなときは平気で寝ますよ」という猛者はいるのだろうか。というかむしろ僕みたいな人が少数派なのだろうか。いま僕の中で割と気になっている問題である。