トイレと幼児

 
 外出先にて、腸の中でスターウォーズが繰り広げられているかのような腹痛に突如襲われ、急きょコンビニのトイレに駆け込んだ。

 断続的な腹痛の波に合わせて、何度かに分けながらマシンガンみたいに用を足し終え、自身のケガれた尻を拭いていた時に、トイレのドアの外から、可愛らしい声が聞こえてきた。

 幼女「トイレー。トイレー」

 母親「まだまだ。いま入ってはるやろ」

 どうやら幼女がドアの外で、用を足したいのを我慢しながら、僕が出てくるのを待っているようだ。ならば急いでこのケガれた尻を清めて出てあげなくては…
 

 …待て。

 僕はいま結構長い時間トイレにこもった。いくら消臭剤的なものが置いてあるとはいえ、排泄物から放たれた臭いはこの狭い個室内に少なからず充満しているはずである(自分のやつの臭いはなかなか分かりにくいが)。

 幼児というのは正直なものだ。その幼女が、僕と交替でトイレに入った瞬間に「うわこれくさっ!」などと率直な感想を的確な表現で述べようものなら、カステラみたいにフラジールな僕の心はきっと酷く傷付いてボロボロにこぼれてしまうに違いない。
 

 そう考えた僕は、まず尻を拭き終えてパンツとズボンを履き、水を流した。そしてそれから、その場で無意味に2分ほどたたずむ、という、消臭効果を狙った時間差作戦を遂行した。
 
 ドア1枚へだてた向う側では、いたいけな少女が排泄欲と戦って苦しんでいる。それは十分に理解している。しかしそれでも、財団法人エゴイスト協会代表の僕、自身が傷付くことを免れ得るのなら、どんな非道にも簡単に手を染めるのであった。
 

 2分ほど経ち、「そろそろいいだろう」と思い立って、ようやくドアを開けた。待ちくたびれたような顔でそこに立っていた母娘。特に幼女は苛立ちを隠せない表情であった。

 僕は左足を踏み出してトイレの外へ出るや否や、店内のエロ雑誌コーナーに衝突せんばかりの早足で歩いて店を出て、何食わぬ顔で街の雑踏の中に我が身を紛れ込ませた。